工業炉や乾燥設備、電子機器、さらには建築設備に至るまで、多くの設計現場で熱に関する課題が存在します。
温度が想定以上に上昇する。特定の場所だけ高温になる。試作機の結果が設計時の予測と一致しない。
こうした問題に直面したとき、まず熱伝導や対流に着目する設計者は少なくありません。しかし高温環境になるほど無視できなくなるのが輻射熱の影響です。
一方で、輻射熱は単純な計算だけでは評価しきれない現象でもあります。
実際の設計現場で重要なのは「輻射熱量を求めること」ではなく、「輻射熱が製品や設備全体にどのような影響を与えるか」を理解することだからです。
本記事では、輻射熱とは何かを簡単に振り返りながら、なぜ実際の設計現場では輻射熱計算だけでは十分ではないのかを解説します。また、高温設備や熱設計において熱流体解析が果たす役割についても紹介します。
輻射熱とは
輻射熱(放射熱)とは、物体が電磁波として放出する熱エネルギーによって生じる熱移動現象です。
熱の移動には「熱伝導」「対流」「輻射」の3つの形態がありますが、輻射は他の2つと異なり、空気や液体などの媒介物がなくても熱を伝えることができます。
最も身近な例が太陽光です。太陽と地球の間は真空ですが、太陽から放出されたエネルギーは輻射によって地球へ到達しています。
また、高温の工業炉やヒーターの近くで強い熱を感じるのも輻射によるものです。
Stefan-Boltzmannの法則によると、物体表面から放射される熱エネルギーは絶対温度の4乗に比例します。そのため、温度が上昇すると輻射による熱移動の影響は急激に大きくなります。特に工業炉、乾燥設備、熱処理設備、電子機器などの熱設計では、輻射熱を無視できないケースが少なくありません。
輻射熱はなぜ評価が難しいのか
教科書では、二つの平板間で発生する輻射伝熱など比較的単純なモデルが用いられます。そのため、輻射熱は計算式さえ分かれば評価できるように思えるかもしれません。
しかし実際の製品や設備はそれほど単純ではありません。
例えば、高温のヒーターを内蔵した装置では、ヒーターだけでなく周囲の構造物や筐体、配管、断熱材なども熱を受け取り、さらに別の部材へ熱を放射します。また、部品同士の位置関係によって決まる形態係数や、表面状態によって変化する放射率も、輻射熱の評価において重要な要素となります。
その結果、ある場所の温度は周囲に存在する多くの面の影響を受けることになります。
設計者が本当に知りたいのは「輻射熱量は何Wか」ではなく、「なぜここだけ温度が高くなるのか」「どこから熱が供給されているのか」という点ではないでしょうか。
しかし、複雑な設備になるほど、単純な輻射熱計算だけで温度分布や熱の流れ全体を把握することは難しくなります。

輻射と流れはなぜ同時に考える必要があるのか
熱解析を難しくしている要因の一つが、輻射と流れの相互作用です。
例えば、高温物体から放射された熱は、周囲の壁面や構造部品に吸収され、その表面温度を上昇させます。その後、加熱された表面から周囲の空気へ熱が伝わることで、空気温度が上昇し、浮力による自然対流が発生します。
さらに、空気の流動によって温度分布が変化すると、周囲の面温度や輻射熱交換の条件も変化します。
つまり、実際の熱現象では、輻射と対流は完全に独立して存在するものではなく、互いに影響し合っています。
高温設備や建築環境などの熱問題では、熱伝導・熱対流・輻射が同時に発生し、それぞれが温度分布に影響を与えます。そのため近年の熱設計では、単一の熱現象を個別に評価するだけではなく、熱現象全体を対象とした熱流体解析が広く活用されています。
熱流体解析を用いることで、温度分布だけでなく流れ場の変化も同時に把握でき、実験や測定だけでは把握が難しい熱移動の過程を可視化することが可能になります。

輻射熱解析はどのような場面で必要になるのか
輻射熱解析が必要となるのは、工業炉のような高温設備だけではありません。
例えば建築設備や屋外設備では、太陽からの輻射が温度分布に大きな影響を与えることがあります。建物の外壁や屋上設備、太陽光を受ける構造物では、日射による加熱が性能や快適性に影響するため、輻射を考慮した評価が重要になります。
また、高温物体の周辺では、輻射による加熱と自然対流が同時に発生します。熱処理炉や乾燥設備などでは、輻射だけでなく流れ場の変化も温度分布に大きく関係するため、両者を合わせて検討する必要があります。
このような問題では、輻射だけ、あるいは流れだけを個別に評価するのではなく、熱現象全体を統合的に解析することが求められます。
ZWPHOENICSによる輻射熱解析
ZWPHOENICS(旧PHOENICS)は、40年以上にわたり航空宇宙、自動車、エネルギー、建築環境など幅広い分野で利用されてきた熱流体解析ソフトウェアです。流れ場と温度場を同時に解析できることから、高温設備や建築環境における輻射熱の影響評価にも利用されています。
輻射解析においては、輻射単体ではなく熱伝導や熱対流との相互作用を考慮することが重要になります。ZWPHOENICSでは、これらを連成した熱流体解析に対応しており、IMMERSOLモデルを用いることで輻射を含む熱流動現象を同時に評価することができます。また、相変化を伴う二相流問題への適用も可能です。
さらに、角度による影響をより正確に評価したい場合には、形態係数を用いるSurface-to-Surfaceモデルを利用することも可能です。面間の輻射熱交換を考慮しながら温度分布を評価できるため、高温設備や複雑な構造を持つ機器の検討に有効です。
実際の設計現場では、輻射熱量そのものよりも、輻射が温度分布や流れ場にどのような影響を与えるのかを把握することが重要になります。熱流体解析は、そのような熱現象を可視化し、設計判断を支援する有効な手段の一つといえるでしょう。
輻射を考慮した熱流体解析の導入をご検討の方は、ZWPHOENICSまでお気軽にお問い合わせください。解析モデルの選定や評価方法について、専門スタッフがサポートいたします。
まとめ
輻射熱は高温環境において重要な熱移動メカニズムですが、実際の設計課題は「輻射熱量を求めること」だけではありません。
設計者が知りたいのは、輻射が温度分布や流れ場にどのような影響を与え、最終的に製品や設備の性能へどのように関わるかという点です。
そのためには、輻射だけを個別に扱うのではなく、熱伝導や対流を含めた熱現象全体を評価する視点が重要になります。
高温設備や太陽輻射の影響を受ける環境では、熱流体解析を活用することで、実測だけでは把握しにくい熱の流れを設計段階で可視化することが可能になります。
輻射熱を正しく理解し、その影響を適切に評価することは、より効率的で信頼性の高い熱設計につながるでしょう。